5月26日

 
 ばあちゃんがとうとう曖昧になってきた。
 もう、息子(ぼくの父)や、ぼくの名前も思い出せないみたい。

 ばあちゃんに、
 おれ、今年何歳になったかわかる?
 ってきいたら、
 ちょっと首をかしげて、
 去年、学校に受かったんだよね。じゃあ20歳くらいかね?

 12年前か。

 12年前は、

 じいちゃんも生きていたね。
 叔母(ばあちゃんの娘)も生きていたね。
 猫も生きていたね。
 おれも妹も弟も実家だったよね。
 みんな一緒に、暮らしていたよね。

 ばあちゃんにとって一番いい時代だったのかね。

 人は誰も、こうして、一番いい時代に帰っていくものなのかもしれないよ。

 ばあちゃんは今、幸せの中にいるのか?

 おれもいつか、一番良かった頃に帰るのか?

 んだでど、まあ、
 帰りだいと思えるような時代なんで、ねえんだげどな。